プロジェクト研究RESEARCH


次世代創薬研究センターでは、
精神神経疾患の機序解明と新規治療薬開発に向け、
行動薬理学的手法や新規薬理遺伝学的手法を用いて、研究を行っています。



1. 精神・神経疾患の機序解明と創薬標的分子の探索

 精神・神経疾患の病因解明や新規治療戦略の開発に向けて、遺伝子改変マウスおよび疾患モデルマウスの行動解析を行っています。

1) 意思決定の神経回路網

 意思決定とは目標を達成するため最善の解答を求めようとする行為をいいます。ある種の経験による価値観の変化は意思決定を左右し、社会生活のミクロ領域では「人格」に、マクロ領域では「経済活動」に反映します。認知機能に障害がないものの、意思決定に障害が見られる疾患があります。パーキンソン病、双極性障害、てんかん、薬物依存症などが挙げられます。特に、覚せい剤などによる薬物依存症や精神病は脳・神経系の活動異常があることで、ハイリスク(刑罰)を恐れずハイリターン(薬物)を好むようになるのではと考えられています。またパーキンソン病の場合、治療過程において意思決定に異常が生じ、財産を賭博に投じる患者が現れます。それだけ、意思決定の障害は患者自身だけでなく、周囲の人々や社会に及ぼす深刻な影響として表れるわけです。しかし、意思決定障害の研究は他の精神疾患と比べて明らかに遅れており、ましてや小動物を対象とした研究はあまり行われていません。私たちは、疾患モデル動物を用いて、意思決定障害の神経基盤の解明を目的に研究を行っています。特に、覚せい剤やタバコ依存症、精神病、気分障害(うつ病、不安障害など)における意思決定機構の神経生物学的基盤についての研究を行っています。

2) 肥満症と食報酬

 高脂肪食は報酬効果を持ち、ヒトや実験動物が高脂肪食を過剰に摂取すると肥満になることから、肥満の背景には、高脂肪食といった「食」に対する報酬機序(食報酬)が深く関与すると考えられています。実際、過食による肥満と薬物依存症との脳内報酬回路が同一であるという実験結果から、肥満は「食依存症」であるという見解が為されるようになりました。また、過食症や肥満症患者は意思決定を評価するIOWAギャンブル課題に異常があることから、報酬に基づく精神的な異常も生じている可能性が報告されました。そのような背景から、私たちは、生活習慣病としての肥満を「食に対する報酬系の異常」ととらえ、新規薬理遺伝学的な神経回路制御法を用いて、食報酬に対する大脳基底核を中心とした報酬回路システムについて研究しています。


2. 神経ストレス性疼痛の機序解明

 心因性疼痛の発症機構の一つとして、神経外傷(神経性)が心理的要因(心因性)などにより「痛みの悪循環」を形成し、それが音響効果のように増強することで、さらなる痛みを誘導する可塑的変化が生じていると考えられています。臨床研究からも、気分障害などの精神疾患を持つ患者では、痛みの悪循環に入り、難治性へと移行することが明らかとなっています。こういった背景をもとに、ヒトの生い立ちや日々のストレス環境が痛みの難治化に関与することを示すことで、現代のストレス社会を反映した新しい痛みモデル動物の提唱と心因性難治性疼痛の治療薬へのシーズ探索を行っています。


3. 認知症モデルマウスを用いた認知症改善薬のスクリーニング

 アルツハイマー病は、学習・記憶の障害を伴った進行性の神経変性疾患です。病理学的な特徴として、Aβの異常な産生と沈着(老人斑)が多数出現し、神経およびシナプスが変性脱落します。それゆえ、 Aβ がアルツハイマー病の原因とするアミロイド仮説が提唱されており、脳内Aβの動態変化は、アルツハイマー病の機序を解明する上で、最も重要であると考えられています。
 一方、女性は45歳ごろより卵巣機能が急激に低下し,やがて閉経を迎える。この閉経前後の10年間を更年期といい、女性ホルモンの欠乏により、自律神経失調症状、精神神経症状、泌尿生殖器症状などのいわゆる更年期障害が現れます。さらに、女性ホルモンの欠乏は、動脈硬化・高血圧などの循環器系疾患、骨粗鬆症、アルツハイマー病など様々な疾患の要因となっています。そのような背景の中、私たちは、アルツハイマー病モデルマウスや更年期障害モデルマウスを用いて、認知症改善薬のスクリーニングを行っています。







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